こんにちは、シルバーとっぷの雲居です。先日、ニュースで気になる報道を目にしました。千葉県で甚大な被害が出た記録的な豪雨から3週間がたち、JR蘇我駅ではエレベーターが浸水したまま復旧のめどが立たず、階段を使うのが難しい方のためにタクシーで迂回する無料サービスが行われている、という内容です(NHKニュース・2026年9月3日)。
復旧に向けて多くの方が動いてくださっているなかで、わたしがハッとしたのは「エレベーターが1つ止まるだけで、動けなくなる方がいる」という事実でした。ふだんは意識しないことですが、高齢のご家族や車椅子を使う方にとって、災害のあとの『移動』は本当に大きな壁になります。今日は、そのニュースをきっかけに、在宅で介護をされているご家族が今のうちにできる備えを、福祉用具専門相談員の目線でお話しさせてください。
災害のあとに立ちはだかる「移動」の壁
今回のニュースで印象的だったのは、被害そのものが収まったあとも、生活のなかの困りごとが長く続くという点でした。エレベーターが使えないと、駅の反対側へ渡ることも、階段の上り下りも一気に難しくなります。これはご自宅の周りでも同じことが起こりえます。
- いつも使っているスロープや手すりが、泥や水で滑りやすくなる
- 停電でマンションのエレベーターが止まり、外出できなくなる
- 避難所までの道に段差や水たまりが残り、車椅子や歩行器では進みにくい
- ふだん車で送迎してくれるご家族が、道路の通行止めで来られない
わたしが担当させていただいたお客様の中には、「うちは平屋だから大丈夫」とおっしゃっていたのに、いざ大雨のときに近くの道が冠水して、ヘルパーさんも訪問できず不安な時間を過ごされた、という方もいらっしゃいました。災害は建物の被害だけでなく、こうした『動けなさ』を生み出すのだと、あらためて感じています。
まずは「うちの親はどう逃げるか」を決めておく
ベテランの先輩によると、いざというときに一番あわてるのは「避難のときに誰が付き添うのか」が決まっていないご家庭なのだそうです。歩行がゆっくりな方や車椅子の方は、避難の準備にどうしても時間がかかります。目安として、健康な大人より支度や移動に何倍も時間がかかると考えて、早めの行動を心がけておくと安心です。
ここで知っておいていただきたいのが、避難行動要支援者名簿と個別避難計画という仕組みです。千葉市では、65歳以上のひとり暮らしで要介護1・2の方や、要支援1・2の方などが名簿の対象になり、ご本人の申し出で登録を求めることもできます。名簿に載ると、災害時に誰がどう避難を手伝うかを一人ひとり具体的に決める「個別避難計画」づくりの対象にもなります。
制度の名前だけ聞くと難しく感じますよね。わたしも最初は「名簿と計画、何が違うの?」と混乱しました。ざっくり言うと、名簿は『支援が必要な方を地域で把握しておくリスト』、個別避難計画は『その方が実際にどう逃げるかの手順書』というイメージです。登録の条件や手続きの細かい部分は、お住まいの自治体によって違いますので、詳しくはお住まいの区役所や地域包括支援センターの窓口でご確認ください。
福祉用具まわりで、今できる備え
現場でよくいただくご質問なのですが、「借りている介護ベッドや車椅子は、災害のときどうすればいいの?」というお声をよく聞きます。福祉用具専門相談員としてお伝えしたいポイントを、いくつかまとめました。
電気で動く用具は「止まったとき」を想像しておく
電動の介護ベッドや、床ずれ防止のエアマットは、停電すると動かなくなったり、空気が入ったままになったりすることがあります。機種によって対応が変わりますので、「停電したらどうなるか」「手動で下げられるか」を、ふだんのうちに担当の相談員にひとこと聞いておくと安心です。わたしたちも、そうしたご質問は大歓迎です。
浸水した福祉用具は、自己判断で使い続けない
先輩から教わったのですが、水につかったベッドや車椅子は、見た目が大丈夫そうでも、中の部品がさびたり電気系統に不具合が出たりすることがあります。無理に使い続けると、かえって危ないことがあります。レンタルしている用具が濡れてしまったら、まずはレンタルした事業者にご連絡ください。多くの場合、状態を確認して、必要なら交換などの相談に乗ってもらえます。
「いつもの一台」を持ち出せるように
避難のときは、つい体ひとつで逃げがちですが、ふだん使っている杖や歩行器が1本あるだけで、避難所での生活のしやすさが大きく変わります。玄関の近くに置いておく、軽くて折りたためるタイプを選んでおくなど、「持ち出しやすさ」も用具選びの視点のひとつです。目安として、ご本人が片手で持てるくらいの重さかどうかを、ひとつの目安にしてみてください。
連絡と情報の「二重の備え」を
ケアマネージャーさんからもよく相談を受けるのですが、災害のときはご家族どうしの連絡がつきにくくなります。遠くにお住まいのご家族ほど、次のような備えをしておくと安心です。
- ケアマネさん・訪問介護・福祉用具事業所など、支援チームの連絡先を紙にも控えておく
- お薬の名前や、かかりつけの主治医の連絡先をメモにまとめておく(体調の判断は必ず主治医にご相談ください)
- ご近所に「うちの親は避難に手助けが要る」と、日ごろから一言伝えておく
- ハザードマップで、自宅の浸水の想定と避難所までの道を家族で一度確認しておく
千葉県は海にも川にも近く、平地の広がる地域も多いので、大雨や高潮の影響を受けやすい土地柄です。だからこそ、ふだんからの小さな備えが、いざというときのご家族の安心につながります。
まとめ:困ったときは一緒に考えます
今回の千葉豪雨のニュースは、「移動」という当たり前のことが、災害のあとにいかに大切になるかを教えてくれました。避難のしかたを家族で決めておくこと、電気で動く用具の「止まったとき」を想像しておくこと、いつもの一台を持ち出せるようにしておくこと。どれも今日から少しずつ始められる備えです。
制度の登録や避難計画の細かい点は自治体の窓口で、体調やお薬のことは主治医に、と専門の窓口を上手に頼りながら、無理のない範囲で進めていきましょう。福祉用具のことでご不安があれば、いつでもご相談ください。わたしも訪問先で、よく同じご相談をいただきます。一緒に考えていきましょう。ご家族の暮らしが少しでも穏やかになるよう、わたしたちは千葉県で38年お手伝いしてきました。
雲居 愛(くもい あい)/ 株式会社シルバーとっぷ 在宅営業部 福祉用具専門相談員。千葉県生まれ。千葉県内の大学で社会福祉を学び、2024年シルバーとっぷ入社。現在は千葉市を中心にご家族のもとへ訪問し、福祉用具の選定やご相談を担当。趣味は読書と犬の散歩。
参考:NHKニュース
